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徳島家庭裁判所 昭和61年(少)1488号 決定

少年 N・Y子(昭46.12.15生)

主文

少年を初等少年院に送致する。

理由

(非行事実)

徳島保護観察所長作成の通告書中の通告事実(第1488号事件)、及び徳島家庭裁判所調査官作成の昭和62年1月14日付報告書中の「審判に付すべき事由の要旨」(第2号事件)に記載のとおりであるから、これらの記載を引用する。

(適用法令)

いずれも少年法3条1項3号イ、ロ、ニ

(処遇の理由)

1  少年は、幼少時に両親が離婚し、以後母に引き取られ、母方祖父母の下で養育されてきたものであるが、中学(○○中学校)1年の冬ころから不良交友が始まり、深夜徘徊、怠学等が見られるなど生活が乱れ出し、中学2年になると、万引、自転車盗を繰り返し、警察に補導されるようにもなった。そこで、心配した両親が再婚し、協力して少年の監督に当たることとなり、それを機会に不良交友を断つ意味からも少年を転校させようということとなり、昭和61年1月(中学2年時)からは△△中学校に通学するようになった。しかし、少年の生活の乱れは相変わらず改善されず、怠学等を繰り返し、特に昭和61年8月、Aと知り合い、交際するようになってから後はA宅に入り浸り、無断外泊を繰り返すようになったため、○○警察署のぐ犯通告により観護措置を受けた後、同年10月7日、当裁判所の決定により保護観察に付されることとなった。しかし、それからわずか数日の内に再びA宅に入り浸るようになり、父母や保護観察所観察官の再三にわたる指導も聞き入れず、無断外泊を繰り返したため同年11月13日、同観察所からぐ犯通告がされることとなり(第1488号事件)、改めて観護措置を受けたうえ、同年12月11日、当裁判所調査官による試験観察に付されたが、それでも少年の生活態度は改善されず、A宅に入り浸って無断外泊、怠学を繰り返し、昭和61年1月初めころからは、その所在さえもわからない状態となった(後にAと共に、無断で小松島市内にあるAの兄の家で暮らしていたことが判明した)ため、・家庭裁判所調査官の報告(第2号事件)により3たび観護措置を受けることとなった。

このように少年は、昭和61年8月以降約半年にわたって、両親や、裁判所、関係機関の再三にわたる指導を聞き入れず、Aとの不良交友、無断外泊、怠学等を繰り返していたものである。

2  少年の資質等を見ると、単純で無邪気なところもあるが、甘えや依存が強く、社会的、精神的に未熟であって、自分を抑制することができず、思い付くままに行動してしまう傾向が強い。また、周囲からの疎外等に敏感で、自分の思うとおりにならなかったり、自分が受け入れられないと感じたりすると、自棄的になって現実逃避な行動をしやすい。

今回の件を見ても、転校、学力不足から学校生活に十分馴染めなかったこと、保護観察決定を機に祖父母宅を出て、父母と暮らすようになり生活環境に変化が生じたことなど、少年にとって不満や疎外感を抱きやすい状況があったことは否定することができないとしても、少年の行動は、自らの置かれた立場を自覚せず、問題を解決するための努力を放棄し、Aとの交遊というもっとも安易な途に走り、怠惰な生活を送ってきたものと評価せざるをえないのであって、ここには少年の自己抑制力のなさ、未熟さといった問題性が顕著に現れている。

3  ところで、少年の場合、犯罪性という面ではそれほど大きな危険性は感じられないが、以上のような、少年の問題点、そして、既に少年が再三の指導にも従わず自分勝手な生活を送ってきたこと、少年の父母もこのような少年の行動に対し有効な監督をする術も自信も失っていること等の事情を考慮すると、このまま在宅処遇を続けていても少年の生活態度を改善することは困難であり、いつまでも現在のような不健全な生活を続けていくことになる危険性が高い。そこでこの際、少年を初等少年院に送致し、そこでの教育を通じて自己の問題性を自覚させ、自己抑制力を強化し、健全な異性観、生活観を養うことが相当である。

もっとも、少年の問題性は比較的単純であり、特段の資質的な歪みも認められないから、短期間に集中的な教育をすることによってこのような目的を達成することが可能であると考える。

4  そこで、一般短期処遇の勧告を付したうえ、少年を初等少年院に送致することとし、少年法24条1項3号、少年審判規則37条1項に従い、主文のとおり決定をする。

(裁判官 鶴岡稔彦)

〔参考1〕 通告書 様式第222号

通告書

徳保観第 号

昭和61年11月13日

徳島家庭裁判所 支部 殿

徳島保護観察所長○○

下記の者は、少年法第24条第1項第1号の保護処分により当保護観察所において保護観察中のところ、新たに同法第3条第1項第3号に掲げる事由があると認められるので、犯罪者予防更生法第42条第1項の規定により通告する。

氏名

年齢

N・Y子

昭和46年12月15日生

本籍

徳島県徳島市○○町×丁目×番地

住居

徳島市○○町○○×番地の×(父)N・M方

保護者

氏名

年齢

N・M

明・大・〈昭〉20年2月12日生

住居

徳島市○○町○○×番地の×

本人の職業

なし。

△△中学校3年生

保護者の職業

徳島市消防士

決定裁判所

徳島家庭裁判所支部

決定の日

昭和61年10月7日

保護観察の経過及び成績の推移

本人は父母の許を住居を定め、△△中学校へまじめに登校することを生活方針として保護観察に入ったものであるが、その実父母の許では生活せず、当初から徳島市○○×丁目×番地の祖父、M・Z75才方に起居して登校したのは、10月18日、27日及び11月4日の3日だけである。

通告の理由

しかも、昭和61年11月1日祖父の許を家出して、同月2日からは徳島市○○(以下不詳)のA16歳方に泊り込み、同月6日父母が同人方から連れ帰り改めて祖父母の許に託してあったが、同月11日再度家出しているもので、父母の許にも、祖父母の許にも定着しないものである。

必要とする保護処分及びその期間

以上のごとく、本人は保護者の監護に服さず、正当な理由もなくA16才方に泊り込む、などして家出をくり返しているもので、登校もしないことから、これ等のことは少年法第3条第3号イ、ロ、ハに該当しており、将来金銭に窮して窃盗などの罪を犯すおそれがある。よってこの際、少年院送致が相当と思料する。

参考事項

(添付書類)昭和61年11月6日作成の面接票(被面接者本人及父母)写し及び同年11月12日作成の面接票(被面接者祖母)写し。

〔参考2〕 報告書

報告書

立件を命ずる

昭和六二年一月一四日

裁判官〈印〉

徳島家庭裁判所

>裁判官鶴岡稔彦殿

審判に付すべき少年を発見したから下記のとおり報告する。

昭和62年1月14日

同庁

家庭裁判所調査官 ○○

少年 N・Y子

昭和46年12月15日生

職業 中学生

住居 徳島県徳島市○○町○○×番地

保護者 N・M 41才

続柄実父 職業 消防士

住居 少年に同じ

審判に付すべき事由の要旨

少年は、年長の男子少年と交際し、家出を繰返し、中学生であるが、登校せず、当庁でぐ犯保護事件により、保護観察決定を、昭和61年10月7日に受けた。しかし、行状はおさまらず、徳島保護観察所からぐ犯通告となり、昭和61年12月11日に在宅の試験観察となった。それにもかかわらず、少年は、家出、不登校を続けている。少年は保護者の正当な監護に服さず、正当な理由なく家庭に寄りつかず、自己または他人の徳性を害する性癖のある者で、金銭に困れば窃盗などの罪を犯すおそれがある。

参考事項 別紙1.昭和62年1月14日付、少年の実母、N・Y子に対する調査報告書

別紙2.同日付、少年の学級担任Bからの電話聴取書。

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